2022年6月24日金曜日

山梨県議会の委員会における発言を受けて

「山梨を多様な人が生きやすい地域にするために」

  私たちCoPrism(こぷりずむ)は山梨がどんな性を生きる人であっても、自然体で過ごせる地域になるよう、2015年(平成27年)から県内で交流会などを企画している、性的マイノリティーの当事者らで結成された団体です。

 今年度、山梨県議会では性的マイノリティーなどの多様な人たちに対する理解を深め共生する社会を目指すための委員会が設置されました。その2022617日の委員会における山梨県議会議員の発言により、辛い思いをしている当事者や何かできないかと考えている応援者の方に向けて、メッセージを伝えられたらと思い、団体として以下の文書を公表します。

 なお今回のことを受けて、知人らと協力し全県議会議員に「トランスジェンダーのリアル」等の性的マイノリティーについて知ることのできる資料を渡しております。

 何よりもまず、今回の件で県内外から声が上がったことで、孤立感を感じることなく本件に向き合うことができ、団体として心から感謝しております。

 文書は2つの内容で構成されています。

 初めに委員会で発言された内容がどのように事実と異なっているのか、そしてそれがどのように問題であるかを説明します。今回の発言を一部引用していますので、しんどいと感じる方は無理して読まずに飛ばしてください。なお、発言した県議会議員は618日に今回の発言について謝罪、撤回をしています。
 次に、今回のことでつらい思いをした方、そして何かをしたいと思う当事者や支援者に向けて、わたしたちからの提案をお伝えします。



1.委員会で発言されたことがどのように問題なのか

性的マイノリティーの主張を認めることが、女性の犯罪被害が増えることに
 つながる
という趣旨の発言をしたこと 

  本発言は、性的マイノリティーが女性に加害する存在であるかのように聞き手に誤認させるものであり、性的マイノリティーの地位を貶め、差別に繋がる言動を誘発しかねない発言であったと受け止めました。
 
昨今、特にインターネット上を中心に性的マイノリティーの一部が女性の安全を脅かす存在であるとの誤った主張がなされています。性的マイノリティーについては10年前と比較しても、メディアに取り上げられる頻度も増え、ここ数年は山梨県や甲府市主催の当事者らによる市民向けや職員向けの講演が開かれるようになりました。しかしながら、その動きと連動して女性が犯罪に巻き込まれる件数が増えたという統計は聞いたことはありません。そもそも、近年メディア等で当事者らの主張が広く知られるようになる前から、性的マイノリティーは存在し、ここ山梨でも一県民として女性を含むマジョリティーと共に生活しています。

 
また2019年の調査によれば、性的マイノリティーの内訳別の性被害経験として、女性を自認するトランスジェンダーは57%、男性を自認するトランスジェンダーは51・9%、レズビアンは52・2%という結果も出ており、性的マイノリティーはむしろ被害に遭うケースが多い可能性も示唆されております。
    宝塚大学看護学部日高教授 2LGBT当事者の意識調査 (ライフネット生命委託調査)

 犯罪被害の少ない、安全な街にしていくことは当然推進すべきことでありますが、それは性的マイノリティーの望む暮らしと対立するものではなく、性的マイノリティーを含む全ての人にとって安全かつ救済へのアクセスが容易な体制を整えることこそが重要であると考えます。

 


性的マイノリティー「普通」ではないという趣旨の発言とともに、
 県の施策として「普通」に戻していくという取り組みをしないのか
 提案したこと


 この発言は、同性を愛することや身体の性別と異なる生き方をすることなどが「普通」ではなく、治すべき事柄であるという主張となっています。ここでいう普通とは、異性を愛し、身体の性別と同じ性別で社会の中で生きていくことを示していると思われますが、わたしたちはわたしのままで生きる権利があります。
 
実際にWHOの「国際疾病分類」では同性愛は1990年から、性同一性障害は2022年から除外されています。つまり、性的マイノリティーであることは病気として治すことではないのです。更に、アメリカで一部の性的マイノリティー当事者に行われている「転向療法」は精神面に深刻な悪影響を及ぼすことが研究によって明らかになっており、「普通に戻す」取り組みは大変に有害なものです。



2.しんどい人や何かをしたいと思う人へ

辛い思いをしているあなたへ


 もしつらいなら、可能な限りニュースから離れて、自分の好きなことをしたり、好きなものに触れたりしてください。悲しみを大切にし、自分自身を癒すことがまずは大事なことです。

 
今悲しかったり、辛かったりするのはあなたが弱いからでも、間違っているからでもありません。それだけのことを社会的な立場のある相手から言われてしまったからで、当然の反応です(逆に悲しく思わなくても、それもあなたの大切な気持ちです)。

 ただ確かなことは、発言者がどんな立場の人であっても、誰にもあなたの存在を否定することはできないということです。

 
もし、話せそうなら誰かに話してみたり、SNSの鍵付きアカウントなどで呟いてみたりしてください。当団体のウェブサイトにある電話相談一覧表掲載の相談先に繋がることもよいと思います。

 
山梨県ではリアルでつながる場所があまりなく、同じ県内に仲間がいるのか分からないという思いもあるでしょう。地方だから理解が進まないという気持ちもあるかもしれません。けれど、県内にも性的マイノリティーはいます。また、ともに考え、ともに生きようとしてくれる人たちもいます。甲州市で同性パートナーシップ制度(同性同士のカップルの関係を行政が証明する制度)が導入され、山梨県でも様々な研修の実施や同性パートナーシップ制度の検討が進んでいます。
 
実感が薄くとも、少しずつでも世の中は変化しています。



何かしたいあなたへ

 何かしたいと思ってくれた方には、以下の方法を提案します。


【知る、知らせる、応援する】

 何となく知っているイメージの中だけで考えると、現実に生きている存在を無視した議論や意見になってしまう事が多々あります。結果的に悪気の有無に関係なく、性的マイノリティーにとって住みにくい街となってしまいます。
 そこで、もっとよく知るために必要なサイトをお伝えします。もしあなたの周りで「あれ?」と思うような発言を聞いた場合も、ぜひこれらを紹介して、「知る」を広げる、つまり「知らせる」をしてみてください。
 「知らせる」相手は、周りの人だけでなく、行政や市町村議会議員でもいいでしょう。ハードルが高いかもしれませんが、お住いの自治体のウェブサイトには、市民の声を集める窓口があります。また「住んでいる自治体名+議員」と検索すれば身近な議員さんを見つけることができます。
 もしかすると、「知る」「知らせる」をされた方の中には、もっと応援したいという思いを抱く方もいらっしゃるかもいるかもしれません。今回紹介する団体の他にも、当団体のウェブサイトにリンクがある団体など様々な活動があります。団体によっては応援したい方へのページも用意していますので、ぜひウェブサイトを確認してみてください。


【「知る」のリスト】

法務局「多様な性について考えよう」
  
https://www.moj.go.jp/JINKEN/LGBT/index.html
東京レインボープライドYOUTUBEチャンネル
  https://www.youtube.com/c/TokyoRPride

はじめてのトランスジェンダー
  
https://trans101.jp/
マリッジフォーオール「どうして同性婚」
  
https://www.marriageforall.jp/marriage-equality/



 最後に、今回のことは心を痛めるできごとではありますが、これを契機とし、改めて私たちの暮らす地域のこと、そしてそこに暮らす人々のことをともに考え、行動してゆける人が増えることを願います。